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ソクラテス・イエス・ブッダ 高ヒット
2017/3/7 14:00 投稿者: manager (記事一覧) [ 889hit ]

ソクラテス・イエス・ブッダ

三賢人の言葉、そして生涯

 

著 者 フレデリック・ルノワール
訳 者 神田順子・清水珠代・山川洋子

発行所    柏書房株式会社

装 丁    桂川 潤
組 版    デルタネットデザイン
印 刷    壮光舎印刷株式会社
製 本    小髙製本工業株式会社

 

東日本を大震災が襲ったのは、私たちが本著の校正に取り組んでいる最中であった。著者フレデリック・ルノワール氏が師と仰ぐ三賢人、ソクラテス、イエス、ブッダの言葉を改めて味読しながらの作業であったはずなのに、そして被災地とは離れた関東南部に暮らしているにもかかわらず、私たちは動揺し、浮き足立ってしまった。慌てて懐中電灯の電池を買い求めようとして商店を訪れたところ、電池だけでなくパンや牛乳をはじめとする食料品、ティッシュペーパーなどの日用品も品切れもしくは品薄であると知り、ますますパニックを募らせた(イエス・キリストが捕縛されると、散り散りに遁走した弟子たちと同じである)。
その一方、被災者たちは互いを思いやりながら苦難に耐え(その様子は海外メディアの称賛の的となっている)、医療関係者、行政組織、警察、自衛隊、消防庁等の要員は不自由な中で不眠不休の努力を続けている。そして福島第一原発では、東電や関連会社の職員を含めた多くの人々が放射能被曝の危険を覚悟して作業に当たっている。
ソクラテスはプラトンの著作『メノン』や『ゴルギアス』の中で、人が不正を犯すのは、それが不正であると知らないからだ、つまり無知ゆえに正しくない行為に走ってしまう、と主張している。そこには、人間の本質は悪ではない、との信念がある。大災害に不意を衝かれて利己的な買いだめに走る行為は「無知のなせる技」と言えよう。また、被災者たちがみせる互助精神、救助活動や原発事故処理に当たる人々の無私の献身ぶりは、人間性に対するソクラテスの信頼は間違っていない、と思わせてくれる。これに、イエスの「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」(ヨハネによる福音書一五章一三)という言葉が重なる。ブッダが慈悲について説く時に用いた譬え、「あたかも、母が己が独り子を命を賭けても護るように」(スッタニパータ一章八 中村元訳『ブッダのことば』)にも通じる。
今回の巨大地震の影響により、関東や東北では計画停電が実施され、節電が盛んに呼びかけられている。被災者のことを考えると、不自由だ、不便だと嘆くことなどできないのは当然であるが、以前より照明を落としたものの特段の問題がない商店や施設を見るにつけ、今までが無節操に電気を使い過ぎていたのでは? との疑問が湧いてくる。景気を良くするためには消費(これには電力消費も含まれる)を活発にせねばならない、猛暑だとエアコンが売れて景気が持ち直す、日本の人口は遠からず減少に転じるので消費は必然的に落ちて国内総生産は下降の一途をたどる、経済成長が期待できるのは人口が多くて消費拡大が見込まれる国(中国、インドなど)である、等々と言われているが、そこにはルノワール氏が冒頭で指摘しているように、「消費の絶えざる拡大を前提とした私たちの生活スタイル」「消費を進歩の牽引役とする文明」の陥穽が見て取れる。制御もままならぬ原子力発電所に頼らざるを得ない現状も含め、もう一度私たちの生活そのものを見直すべきだろう。「『わたしは何を食べようか』『わたしはどこで食べよう
か』『(昨夜は)わたしは眠りづらかった』『今夜はわたしはどこで寝ようか』──家を捨て道を学ぶ人は、これら(四つの)憂いに導く思慮を抑制せよ」(スッタニパータ四章一六 同前)との教えに従って比丘(尼)となることはできない私たちの多くにとって、答えは簡単に見つからない。このブッダの言葉とよく似ているイエスの教えである「何を食べようか、何を飲もうかと、自分の命のことで思いわずらい、何を着ようかと自分のからだのことで思いわずらうな」(マタイによる福音書六章二五)にも、私たちの多くは従いにくい。しかし、日本人が、いや世界の人々がここで立ち止まって自分たちはどのように生きるべきなのかを考え直す時だろう。先にも言ったように、簡単に答えが見つかる問題ではない。ソクラテスにその「助産術」で問い詰められて人々が既成概念や思い込みを崩されて途方に暮れたように、私たちも真剣な対話を交わして(何よりも自分自身と)、途方に暮れながらも真実とは何かを探るほかない、と思う。

訳者あとがきより

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