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8種類の医者
 
──柳義泰先生に説明してもらいましょう。

●一 心医(しんい)
「人種類の医者のうち、その第一を心医と称する。心医とは、相対する人をして常に心を安らかにさせる人格の持ち主である。その医者の日の色に見入っているだけで、病人は心の安らぎを感じる。病人を真心からいたわる心がけがあって初めてその境地に達しうる医者、それが心医なのだ」
●二 食医(しょくい)
 「二番目が食べるショクの字、食医。これは病人の症状を判断するに当たつて、いつも ながら真心が不足し、ただ、病人が話す症状だけを聞いて、薬を調剤するばかりの者だ」
●三 薬医(やくい)
 「三番目は薬のヤクの字、薬医。病人の声音を聴いて判断し病状の軽重を見い出そうとはしない。この部類もまた、病人の口述のままに、そして薬方文の処方どおり調剤するだけである。朝方と夕方では変わっていく病人の体調について問診したり、病人の気力と内臓の状態とを比べ合わせて診断しようとはしない。薬とは、もっぱら、病人自身が具合が悪いとするその部位の薬だけを服用させて回復を待つ者である」
●四 昏医(こんい)
 「四番目は昏(くら)いのコンの字、昏医。病人が危篤であれば自分もつられてうろうろする。病人が力つきて寝つくと自分もあぐらをかいて眼をぎょろつかせながら、高価な薬の売り込みの手管のみを考える者だ」
●五 狂医(きょうい)
 「次は狂うのキョウの字、狂医。病人とは普通、自分の苦痛について常に誇張して訴え るものであることを知らず、もっぱら、病人の訴えだけを聞き、病人にやたらにきつい 薬を飲ませる者である。」
●六 妄医(もうい)
 「次が妄医と呼ばれる者。病人の苦痛を癒すどころか、病人の衣装を見ながら薬代を多く出せる者であるかどうかに関心を持つ。もし、病人が夜中にでも訪ねてこようものなら、自家の障子の穴から外を覗いて、身なりが貧しければそのまま追い返すのが常である。こんな医者は、昼間に訪ねていっても、病人がやせ細っているか肥っているかさえ気をつかわぬ。先に、誰にたいしてどんな薬で治したか、それを経験事実にし、もっぱら、高価な薬こそよく効くのだと強弁する者である。」
●七 詐医(さくい)
 「次は詐医。この詐(いつわる)るのサの字の詐医は、格好だけは医者らしい振舞いを し、自分流儀で別に病気でもない人を探しまわっては、診察をする振りをしていいかげ んに調剤した一つの薬で万病に効く薬だと強弁する者だ」
●八 殺医(さつい)
 「最後は殺(ころす)すのサツの字の殺医である。春夏秋冬の季節の変化の理や、生命 の誕生、成長と死亡の理について無知であるばかりでなく、病気で苦しむ者を見ても共に苦しみ合う心がない。ひいては他人の調剤した処方について、いちいち、そうだ、そうでないなどとうるさく騒ぎ立てて、売名をこととする者である」
 マニュアルを見ながら外科手術をする医者など、まさに殺医といえそうだ。子どもの急患をいやがる若い当直医などは、詐医でしょう。八種類の医者といいながら、医者とよべるのは、心医だけですね。
33種の水
柳義泰は、『許浚<ホジュン>』の中で33種の水のあることを教えています。
小説のなかでは、残念ながら17種類しかみだせません。 いずれも、美しい名もつ水です。

1 井 華 水(チョンファス) その性質は平で、味は甘く、毒がない。一日の黎明を  開く天一真精が露となって水面に結晶しているからだ。よって病人の陰を補養するため の薬を煎じるときには、真心のこもった医者だと必ずこの水を使う。
2 寒 天 水(ハンチョンス) 夏は冷たく冬はあたたかい。一番鶏の鳴く夜明けまえのも のでなければならない。この水を長服すれば、反胃(胃癌)が治せる。
3 菊 花 水(ククファス) またの名を菊英水ともいう。この水は風痺〔手足などの身体 の麻痺症〕を治す。
4 臘 雪 水(ヨプソルス) 肝臓の病を治す。
5 春 雨 水(チュンウス) すなわち陰暦正月の雨水で、人に陽の気が衰えたとき気を盛 り返す。清明の頃と穀雨のときには、その味がかわることから、選び分けて使う。
6 秋 露 水(チュロス) 日の昇るまえの水に限られ、これは腹中の菌をなくす薬の調剤 には欠かせない水。
7 梅 雨 水(チャンマス) 腫瘍の毒気を消す。
8 甘 爛 水(カムナンス) 身心の虚弱を治す。
9 碧 海 水(ピョクヘス) かゆみを治す。すなわち海水で、これを沸かして身体を洗う。
10 温 泉 水(オンチョンス) 骨折や筋肉痛にきく。硫黄のにおいがする水を使う。
11 冷 泉 水(ネチョンス) 偏頭痛の治療には冷泉水を使う。その冷泉の底には必ず白礬 (はくばん)があるが、水浴びをしていい季節は、陽が沈んでもまだ地熱の気が積る陰 暦の六、七月に限る。夜中にこの冷水を浴びれば、偏頭痛には効くが、失語症を患うか 生命まで失いかねない。
12 夏 氷 水(ハヨルムス) 
13 半天河水(パンチョンハス) 
14 千 里 水(チョンリス) 百里を流れてきた千里水。
15 逆 流 水(ヨクルス)
16 涼  水(リョンス)
17 甑 気 水(そうきすい) 髪を洗えば髪の成長が速いばかりか色が黒くまた艶も出る。 甑の蓋に宿る。

 

 
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